ボタニカルアートライブラリー
ボタニカルアートライブラリー
ボタニカルアートライブラリーは毎月更新していきます。
ボタニカルアートライブラリーは、正山征洋名誉教授・特任教授にご執筆いただいております。
ビャクダン
ビャクダン(ビャクダン科)は、インドやスリランカに自生する半寄生の常緑性高木です。発芽させる時は他の植物と一緒に植えなくてはなりません。花は帯赤褐色で黒い丸い果実を結びます。スリランカで材を切り出し割って販売しているのを見ましたが、材の周辺部には芳香は無く心材部分だけに芳香があるので、その部分を商品としていました。中国では白檀、檀香、白檀香、真檀、浴香等の名前が付けられています。白檀を含む香木は仏教の伝来とともに日本にもたらされ、鎌倉時代になると武士が精神集中のために、室町時代には香りを楽しむ香道として、江戸時代に入ると一般市民の間にも普及して香道が広まり現在に至っています。ビャクダンに含まれる精油成分、カンフェン、テルピネン、サンタロール、カリオフェレン等について、抗認知活性や脳梗塞予防等が明らかにされています。詳細については「暮らしの中で楽しむお香ー癒しのお香、正山征洋、aromatopia, 32(2), 1-1,2023」をご覧ください。本画は1800年前半の作品と思われますが作者は不明です。
レモン
レモンはミカン科に属する中高木です。春に白い香りのよい五弁花を開きます。花が終わると果実が徐々に大きくなり、秋にはラグビーボール状で握りこぶし大となります。レモンの皮は枸櫞皮(くえんひ)と呼ばれ、芳香性健胃薬として用いられます。また、レモンとローズマリーの精油を混ぜたものは抗認知活性があるとの報告があります。本画は1852年のウインクラーによる作品です。
トリカブトの一種
学名がAconitum variegatum となっています。Aconitumは語源の由来が不明と言われていますが、variegatumはラテン語由来で「斑入りの」と言う意味があります。本種は南東~中央ヨーロッパに広く自生する植物で、アコニチン系アルカロイドを含み猛毒ですので薬用にするとの記載は見当たりません。
漢方薬、中医薬ではAconitum属植物の塊根は附子と呼び、極めて重要な生薬の一つに数えられています。しかし生附子の成分、アコニチン系アルカロイドは猛毒成分ですので、薬局方では生附子を加圧下加熱してアコニチン系アルカロイドを部分分解し減毒します。このことにより減毒すると共に体を温める作用、鎮痛作用、強心作用等が浮き立ってきますので附子剤と呼ばれる漢方薬に配合されています。本画は1800年代中期ステップによる作です。
ケジギタリス
右上がケジギタリスで、左上はマチン科の植物です。右下はサクラソウの仲間で、左下はキク科のヤグルマソウの仲間です。ケジギタリスの葉はジギタリス葉と同様強心配糖体の原料です。学名がDigitalis lanataですので、強心配糖体類には学名に因んだ名前lanatoside A, B, C, deslanoside 等がつけられています。強心配糖体は心筋細胞のカルシウム濃度を上げて心筋の収縮力を増大します。このことにより心不全や強心利尿薬として用いられます。本画は1800年代初期マウンドにより描かれた作品です。
キキョウ
キキョウはキキョウ科に属する多年草で、6月から8月にかけて美しい紫色の花を開きます。キキョウの根(桔梗根)はサポニン生薬と言われ、プラチコジン類やポロガラシン類等のサポニンを多く含んでいます。桔梗根は去痰、鎮咳、排膿、抗炎症作用として扁桃炎、咽頭炎などに用いられ、薬局方にキキョウ末やキキョウ流エキス等が収載されています。また、漢方薬へ配合する重要な生薬でもあり、桔梗湯、荊芥連翹湯、五積散、竹茹温胆湯、十味敗毒湯、柴胡清肝湯、防風通聖散等約15%の漢方薬に配合されます。韓国では薬膳としても用いられており、若いキキョウの根を街角で売っていたことを覚えています。キキョウは薬としても重要ですが、「萩、尾花、桔梗、撫子、女郎花、葛、藤袴」と秋の七草の一つとしても親しまれています。本画はカーチスによる1700年代末の作品です。
アジサイ
アジサイはユキノシタ科に属する低木です。野生のガクアジサイを品種改良したもので、日本原産と言えるでしょう。シーボルトが妻の名、「おたき」に因んでHydrangea otaksaと命名しましたが、既にH. macrophyllaの学名が付けられていましたので認められることは有りませんでした。アジサイはヨーロッパに持ち込まれ品種改良が繰り返され多くの品種が生み出されました。古くは花を風邪引きに用いるとの記述も有りました。また、ヤマアジサイの変種であるアマチャ(甘茶)はお茶として馴染み深いものです。しかし濃い甘茶を飲み嘔吐した例やアジサイの葉を食べて中毒症状を起こしたとの報告が見られます。アジサイから青酸配糖体、ヒドロチアノシドや嘔吐を起こすアルカロイド、フェブリフジンが含まれているとの報告があるものの確証には至っていない状況です。アジサイやアマチャの個体差が大きいために起こったのかも知れません。本画は1800年代中期ステップによる作品です。
ユリ科の植物
左上がセキショウ(サトイモ科)で右上がナルコユリの仲間(ユリ科)、左下がドイツスズラン(ユリ科)、右下がエンレイソウ(ユリ科)、真ん中がマイズルソウ(ユリ科)です。セキショウの根茎は石菖と称し認知機能を高める働きのある漢方薬に配合され、石菖も同様に用いられます。ナルコユリの根茎は黄精と呼び強壮作用がある生薬として有名で黄精酒とすることが多いです。その他ドイツスズランの根茎は強心剤として用いられていましたが、現在は毒草となっています。本画はPetermannにより植物教本として1857年に描かれました。
チョウジ
チョウジはフトモモ科の常緑高木でインドネシア、マダカスカル、アフリカ等で栽培されています。生薬の丁子は花の蕾を乾燥させたもので、その形が釘に似ていることから名付けられました。スパイスとしてはクローブと呼ばれ精油含量が高く、オイゲノールを主成分とし、そのアセチル体やカリオフィレン等を含んでいます。その他加水分解型タンニンであるオイゲニン等も含まれます。本画はウインクラーにより1852年に描かれました。
カタクリ
カタクリ、シバザクラ、アミガサユリの仲間、チムス等が描かれています。
カタクリはユリ科に属し、春一番に咲く花の一つです。湿った半日陰の地に群生することが少なくありません。しかし近年は群生地が減っているようです。これは江戸時代デンプン生産のため大量のカタクリが採取されたため各地で個体数が激減し絶滅危惧種となっています。古くは鱗茎からデンプンをとったことから片栗粉と呼ばれました。なお、現在では片栗粉は全てジャガイモから生産されます。片栗粉は胃腸の弱った時に食べさせられたことを思い出します。
本画はマウンドにより手彩色で描かれたもので1800年代初期の作です。
ナス科植物
いずれもナス科植物が描かれています。
左上は、ハシリドコロ(日本種はScopolia japonica)で根は竹の根のような形態です。上の中央はタバコ(Nicotiana tabacum)です。右はベラドンナ(Atropa belladonna)です。
下の左はチョウセンアサガオ(Datura stramonium)で右はキダチチョウセンアサガオ(Brugmansia suaveolens)と同名となっている多年生低木です。チョウセンアサガオの茎葉や果実、種子等に、ベラドンナやハシリドコロの根にアトロピンやスコポラピン等を含みますので、古くはエキスを胃けいれん等に用いていました。現在ではアトロピンの製造原料とされ、副交感神経遮断薬として用いられています。タバコからはニコチンが抽出され、研究用試薬として自律神経節遮断薬等に用いられます。
本画は1857年にペターマンが創設した植物雑誌に描かれたものです。
サフラン
サフランはアヤメ科に属する多年生草本で、秋花茎を延ばし赤紫の花を開きます。赤い3本の雌しべを集めたものがサフランです。雌しべには淡赤色のクロシンという特異なエステル配糖体が含まれます。その他に香り成分であるサフラナール、苦味成分ピクロクロシン等が含まれていて古くからスパイスの一種に位置付けられてきましたが、最近の研究で多くの薬理作用が発見されてきました。サフランは血流を良くする作用の他、ノンレム睡眠作用、抗認知作用、抗うつ作用、抗腫瘍作用等が明らかになり、睡眠促進剤として投与されるケースが増えています。また、シンガポールでは我々の研究をベースとして、サフランと漢方処方を混合した、認知症予防薬が5年前に承認されました。またサフラン、イチョウ葉、人参を配合したエキスは抗認知作用の臨床研究が進められていて、抗認知症薬の登場に期待が持たれています。本画はウインクラーによる1852年の作です。
Meconopsis simplicifolia
Meconopsis simplicifoliaの学名を持つ本種は青いケシと称されヒマラヤやチベットに自生するケシ科の植物です。現在では世界中で栽培されており、スイスアルプスの麓で見つけて、珍しい植物ではとワクワクした事を思い出します。ケシ科ですので当然ながらアルカロイドを含有しておりチベット医学では薬用にしています。最近の論文を見ますと、薬剤耐性を持つマラリアに有効なプロトベルベリンタイプのアルカロイドを単離したとの報告がなされています。本画は1858年バン・フォーテンによる作品です。
チャ
チャはツバキ科に属する中国原産の常緑灌木で10月~12月頃開花し、果実は年を超えて熟します。中国の唐の時代に陸羽が『茶経』を著し茶の種類や精製法を詳しく述べているので、中国では既に喫茶の風習があったものと考えられています。日本へは建久2年(1191年)栄西和上により茶の種子がもたらされ各地で栽培が広がったと言われています。現在では完全発酵茶(紅茶等)から無発酵茶(緑茶)、中間発酵茶(ウーロン茶等)まで色々な種類の茶が市販されています。緑茶の健康に対する有用性は静岡県で茶を多く飲む地域と余り飲まない地域の胃がんの発症率が前者で低いことが疫学調査により判明しました。この事がきっかけとなり緑茶の各種疾患に対する活性が研究されるようになりました。循環系に対する疫学調査が行われ、飲まない群に比べ、1日4杯以上飲む群では全循環器疾患が明らかに低くなっていました。宮城県下で行われたコホート研究で1日5杯以上緑茶を飲む人は認知症発症リスクが27%減少しました。現在、緑茶と認知症との関係についての研究が広く行われています。
本画はカーチス・ボタニカルマガジン1832年の作品です。
ケイヒ
ケイヒはクスノキ科に属する常緑の高木です。葉は葉脈が目立ちシナモンの香りがします。インド南部、スリランカ、ベトナム、中国南部等が主栽培地です。材の下部を切り樹皮をはがしコルク部分を削って桂皮とします。切り株からは新芽を延ばし株立ちとなり、数年後には再び桂皮を製造することが出来ます。シナモムとしてスパイスに使われる量も少なくありません。ケイヒアルデヒドを主体とする精油成分も多く含まれ、また、特異のジテルペンやタンニンを含んでいます。タンニン類では甘いタンニンが発見され、シンナムタンニンと命名されました。薬効としては抗アレルギー作用、抗炎症作用、発汗解熱作用、鎮痙作用等です。桂枝湯、麻黄湯、葛根湯等多くの漢方処方に配合されます。
本画はカーラーによる1890年代の作品です。生薬学の講義の時に使われていたことを思い出します。
キナ
アカネ科に属するキナノキCinchona succirubraの樹皮がキナ皮です。キナノキは樹高が20mを超える高木で、ペルーでは苦味健胃薬、食欲増進薬、解熱薬、抗痙攣薬、抗マラリア薬として用いられ、国の大きな収入源となっていました。そのような状況下、イギリスのキュー植物園等も加わり、規制の厳しいキナノキの種子が最初インドにもたらされ、後にインドネシア等で大規模プランテーションが成功するに至りました。1820年には2人のフランス人医師によりキニーネが結晶として単離され、マラリアの特効薬として200年間君臨しましたが、耐性が出始めたためアメリカで実用的なクロロキン合成がなされ、抗マラリア薬として発売されました。しかしクロロキンに対する耐性が出ると、再びキニーネを用いる時期もありましたが、クソニンジンから単離されたアルテミシニンが使われ始め現在に至っています。マラリアに関して、マラリア原虫の発見、マラリアを媒介するハマダラカの発見、強力な殺虫剤DDTの合成、クソニンジンからアルテミシニンの単離と抗マラリア活性の発見等、合わせて4つのノーベル賞が授与されています。如何にマラリアが世界に大きな影響を与えてきたかが理解できます。
上は1850年代ウインクラーによる作品で、下は作者年代とも不詳。
ジャガイモ
ジャガイモの花と果実が描かれています。ナス科に属するジャガイモはアンデス山脈原産で現在では世界各地で栽培されています。しかし南米からヨーロッパや日本に伝わるまでには長い年月を要しました。大航海時代にヨーロッパへもたらされましたが、航海中船倉で発芽し、それを食べた船員が中毒死したことから毒草であるとの噂がひろまり、200年間は花卉植物として鑑賞されていたようです。日本へは東南アジア経由で16世紀に伝わって来ましたが、最初は観賞用だったようです。ジャガイモは発芽することによりステロイダルアルカロイド配糖体のソラニン等が生合成され蓄積するため、それを食べると中毒症状を起こし、酷い場合は死に至ります。
本画は1700年代末、ターピンにより描かれました。
トコン
トコンCephaelis ipecacuanhaはアカネ科に属するブラジル原産で湿り気の多い樹下に自生する小低木です。また、栽培もされています。数珠状に伸びた根にはイソキノリンアルカロイドであるエメチンやケファエリンを含んでいます。エメチンは少量で去痰作用を示し、多量だと催吐作用があります。また、アメーバ赤痢の特効薬として用いられていました。現在薬用としてはトコンシロップを誤飲等の吐剤として、少量では去痰薬として用いられます。エメチンの製剤は抗原虫薬とします。
本画は、ビッツによる1800年頃の作品です。
シャクヤク
シャクヤクはボタン科に属する多年草です。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花、との例え通り美しい花を開きます。根にはモノテルペン配糖体、ペオニフロリンを含んでいます。ペオニフロリンは鎮痛、鎮静、抗炎症、抗痙攣、血圧降下、平滑筋弛緩等の作用を示し、芍薬そのものの薬理作用とほぼ同等です。また、含有するタンニン類には血清の尿素窒素減少作用があります。
芍薬は桂枝湯、葛根湯、当帰芍薬散、四物湯等多くの漢方薬に配合される重要な生薬の一つです。また、芍薬は日本で比較的多く栽培されている生薬の一つです。
本画は、カーチスによる1700年代末の作品です。
ゲンチアナ
リンドウ科に属するゲンチアナは、学名がGentiana luteaでドイツやスイスに自生する多年草です。他のリンドウ科植物に比べて草丈が150cm位にまで伸び、10年くらい経って黄色の花が開きます。かなり大きくなる根茎は、掘り取って覆いをして短期間保存することにより、若干発酵が進みます。根茎と根にはセコイリドイド類のゲンチオピクロサイドやアマロゲンチン等を含み、極めて苦いので苦味健胃剤として用いられています。
本画は、1779年ヨハン・ゾーンによる作品です。
リンドウ
メルヘン調の絵(年代作者共不明)が描かれており、崖プチの日当たりの良い地で薬草採集をしているのかも知れません。学名がGentiana acaulisと書かれています。古代ギリシャ・ローマ時代のIllyria国の王Gentiusに因んだ属名Gentianaと背丈の低い意acaulisが組み合わさって学名となっています。恐らく矮性で気品がある様子から命名されたのだろうと思われます。本植物はヨーロッパアルプスに自生する種で薬用にはしないようです。なお、左下はステップ(1850年頃)により描かれたものです。
ゲンチアナ属植物はゲンチオピクリン等の苦味配糖体を含み薬用とするものが多く、日本薬局方に掲載されています。健胃薬としてゲンチアナGentiana lutea、リンドウGentiana scabraは根を用い、センブリSwertia japonicaは全草が用いられます。
ヒカゲノカズラ
ヒカゲノカズラ(ヒカゲノカズラ科)は、山野の比較的湿り気の多い地に自生する多年生シダ植物です。茎は2m 前後に伸び多くの枝を出します。初夏に所々の枝先に胞子嚢穂を延ばし、胞子嚢には小さくて黄色の胞子が詰まっています。胞子は石松子と称して丸剤のコーティング剤として用いられていました。現在では人工授粉する時の増量剤として用いられています。
全草は伸筋草と呼ばれ、風邪や筋肉・関節のこわばりを和らげ、間接痛に用いられます。また最近は記憶学習能を高め、認知症にも用いられるとの論文が見られます。特に中国ではヒカゲノカズラに含まれるリコポジュームアルカロイドをアルツハイマー病に応用しょうとする研究が行われています。
本画はターピンによる1800年代初期の作品です。
アメリカニンジン
アメリカ人参は中国の広東に陸揚げされていたことから広東人参と呼ばれ、また、洋参とも呼ばれます。日本では非医に入りますので健康食品として扱われていますが、胃腸を整える作用、中枢作用、抗腫瘍活性、強壮強精作用等が広く研究され、人参とほとんど変わらない薬効を持っています。ただし、通常の人参は虚証の人を目安に投与されますが、アメリカ人参は比較的体格の充実した人にも適用されます。
1700年代末には絶滅寸前となりましたが、1800年代に入り栽培化が本格化し、現在は北アメリカやカナダで年間乾燥重量約1000トンが生産されており、かなりの割合で中国へ輸出されています。
本画は1700年代末ターピンによる作品です。
ニクズク
ニクズクはニクズク科に属する常緑性の熱帯樹です。葉はつやがあり革質です。黄色の小さな白い花を開き、球形で橙黄色の果実を結びます。種子にくっついている皮をはがして乾燥したものがニクズク花 (Mace) です。種皮を除いた種子は粉末として、料理の香味料、発汗剤として用いられます。種子の水蒸気蒸留により得られるニクズク油、種子を圧搾して得られるニクズク脂、何れも香料として重要です。ナツメグは肉の保存に重要なスパイスであったことから大航海時代の最も重要な貿易品の一つでした。スパイスとしての使用と共に神経疲労に活力を与え、失神時の覚醒作用、各種疼痛に対する鎮痛作用等を目的に薬用としても重要視されていました。
本画はFernand Vietzにより1800年に描かれました。
ボタン
上段の左にボタンが描かれています。ボタンはボタン科の多年生の灌木で、樹高は1m前後です。春シャクヤクより1か月程早く開花します。立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花と表現される程美しい花を開きます。薬用には根の皮を使います。根を掘り取り、中の芯を除いたものが牡丹皮です。牡丹皮は駆瘀血作用が強い生薬で桂枝茯苓丸や八味地黄丸等に配合されます。
本画は、ムンドにより描かれた1800年代初期の作品です。
カラダイオウ
タデ科に属するカラダイオウ(唐大黄)です。波打つ大きな葉を持ち草丈2mに達し根茎も大きく肥大します。夏、茎の先端部の葉腋から穂状花序を延ばし、白い花を開きます。秋にはソバの果実に似た果実を多数結びます。若い葉は食べる事ができます。根茎のセンノシド等の含量が低く、品質的には劣るため薬局方には収載されていません。
本画は、1783年ブッチョにより描かれました。
スチラ
スチラはユリ科に属する多年草です。鱗茎部がタマネギに似ているため、誤食による中毒事故が起こっていたように記憶しています。昔の生薬の教科書にはスチラの鱗茎は強心配糖体を含む強心薬として掲載されていました。ブファジエノライド系(6員環ラクトン)の強心配糖体を含んでいますが、作用量と中毒量が近いため、現在では強心剤として用いることはありません。むしろ殺鼠剤として用いられることもあるとの事です。
同様にユリ科のオモトやスズランも昔は強心剤として用いられていたようですが、これらもスチラ同様、現在では用いられません。
本画は、1852年ウインクラーによる作品です。
ギョウジャニンニク
ギョウジャニンニク(ユリ科)は北海道や東北地方の高山帯に自生しています。葉は山草として好んで食べられています。但しギョウジャニンニクと間違えてイヌサフランの葉を食べて亡くなるケースが年に1,2件はあるようで注意が必要です。
本画は、1800年ビッツにより描かれました。
サルサ根
学名を見ますとSmilax sarsaparilla Linneとなっていますので、サルトリイバラ(ユリ科)の仲間と言うことが分かります。南米原産で、本画では蕾が開き開花を始めています。秋には赤い美しい果実を結びます。根をサルサ根と呼び、生産地によりエクワドル・サルサ根、フォンジュラス・サルサ根、ジャマイカ・サルサ根、ベラクル・サルサ根等が、我々が習った昔の教科書には載っています。根にはステロイダルサポニンを多く含んでいます。リュウマチや梅毒感染時の利尿、発汗に用いられていました。
本画は1700年代末Zornにより描かれたものです。
ヤブツバキ
ヤブツバキ(ツバキ科)は暖地の照葉樹林帯を形成する主要な樹種で、九州各地に多く自生しています。秋から初春にかけて多様な変異を持つ大きな美しい花を開き、秋に大きな果実を結び、熟すとともに割れて3個の種子がこぼれ落ちます。
種子を集め、圧搾して油を集めたものが椿油で、整髪料として、また、良質のてんぷら油として珍重されています。ツバキの仲間は熱帯アジアから北上し、日本では暖地のヤブツバキから、新潟、富山地方の雪深い山岳地に自生するユキツバキ、平地に自生するユキバタツバキ等の変異がみられます。
本画は、ステップによる1850年頃の作です。
トウゴマ
トウゴマは東アフリカ原産のトウダイグサ科に属する多年草です。葉は掌状で互生です。夏、葉腋から花柄を伸ばし、多くの黄色花を開きます。秋には剛毛に覆われた果実が熟し、3個の迷彩模様の種子を内蔵します。迷彩模様をダニと見立てて種名がRicinusとつけられました。種子からとられた油をヒマシ油と呼び峻下剤とします。なお、種子にはリシンと言う毒性のタンパクを含んでいるので注意が必要です。
パッションフルーツの仲間
トケイソウ科に属する蔓性多年草です。原産は南米で、多くの種から選抜され、現在では熱帯、亜熱帯で広く栽培されています。花が時計に似ることから和名はトケイソウです。
果実にはクエン酸含量が高く、血液サラサラ効果と疲労回復に効果的です。ビタミンCが多く、鉄分の吸収を助け、貧血の予防に機能します。 ビタミンB2は糖や脂質の代謝を促し、血糖値の上昇を抑える働きで糖尿病予防に効果的と言われています。また、種子に含まれるポリフェノールのパセノールに、アンチエイジングに効果が期待できる活性酸素を除去し、血行を良くする効果が確認されています。
本画は、1834年のパキソンによる作品です。
キョウチクトウ
キョウチクトウ科に属する常緑低木です。インド原産で江戸時代に中国経由で日本に入ってきました。漢字で書くと夾竹桃で葉が竹に、花が桃に似ることからつけられました。葉や枝を傷つけると白い乳汁がでますが、これがキョウチクトウ科やガガイモ科、キキョウ科等の特徴の一つとなっています。葉にはオレアンドリン、アデイネリンと呼ばれる強心配糖体が含まれていますが、これら成分は薬用量と毒性量の差が小さいため、直ぐに致死量を超えてしまいます。現在はジギタリスやケジギタリス、ストロファンツス等の強心配糖体を抽出して薬用に供されています。これらの成分は薬用量がコントロールしやすく死亡する例は極少ないものと思われます。
戦後間もない頃、九州大学医学部とある製薬会社がオレアンドリン等を強心薬にすべく研究が行われましたが、前述の通り薬用量と毒性量の幅が狭いために医薬品開発には至りませんでした。このように心臓毒であるキョウチクトウですので決して口に入れてはならない毒植物として認識する必要があります。
本画は、1800年代半ばのステップによる作品です。
センナ
センナは学名がCassia angustifolia Vahlでインド南部やアフリカナイル川中流域等で栽培されるマメ科に属する4m前後の低木です。学名はCassiaがケイヒから転化し、angustifoliaは葉が狭い意です。薬用には小葉が用いられ、緩下剤として1回量粉末0.25-0.5gを1日1-3回服用します。通常は大黄末と併用したセンナ大黄錠が多く用いられます。また、センノシド錠としても市販されています。
センナにはアントラキノン2量体の配糖体であるセンノシドA、センノシドB、その他のアントラキノン配糖体が含まれます。センノシドA、Bは腸内細菌により還元的に代謝されレインアンスロンとなり瀉下作用を引き起こします。したがって抗菌剤・抗生物質との併用は当然力価が低下しますので注意が必要です。また、センノシドA、Bは母乳を通して乳児に移動し乳児の下痢を起こすことがありますので要注意です。
センナの小葉は医薬品ですが、葉柄や茎は非医となっていますので、痩身用サプリメントに用いる事も少なく有りません。しかし、葉柄と葉軸の区別に混乱が生じる事も有り違反につながる場合もあります。
本画はカーチスのボタニカルマガジンに収載されたもので、1700年代末の手彩色による作品です。
セネガ
セネガはカナダやアメリカ北部に自生するヒメハギ科に属する多年草です。春、茎頂部から花穂を伸ばし、緑白色の花を開き、夏に果実を結び、平ぺったい種子を内蔵します。
根にはセネガサポニン類を含むので、セネガシロップとして咳止め、去痰に用いられます。漢方で用いられる遠志と近い種で、同様なサポニンを含んでいます。遠志は物忘れを予防するOTCとして販売されています。
本画は、1800年ビッツによる作品です。
ユキノシタ
ユキノシタ(ユキノシタ科)は常緑の多年生草本で、半日陰で湿気の多い地に自生します。葉が虎の耳に似ていることから虎耳草と呼ばれ、生の葉のしぼり汁は小児のひきつけの時、口に含ませます。また、耳の炎症に数滴を垂らします。乾燥葉を煎じて飲めば乳房炎に効果があります。
初夏の頃根際から花茎を伸ばし、ピンクのがくを持つ白い八の字形の花を開き、この頃葉を天ぷらにすると美味しく食べられます。
本画は、1850年代ステップの作です。
ベラドンナ
ベラドンナ Atropa belladonna は、ナス科に属する草丈1~2mの多年生草本です。茎は直立し上部で分枝します。短い葉柄を持ち、葉は卵形で先が尖り互生します。
夏に葉の付け根から花茎を伸ばし鐘状の紫褐色の花を咲かせます。秋には球形の果実が黒熟し、中に多数の扁平な種子が詰まっています。ベラドンナ根は薬局方にも収載され、また、アトロピンの製造原料となっています。
モンゴルで自生していましたので、恐らくヨーロッパ辺りで栽培されていたものが野生化したのではないでしょうか。本画はウイリアム・ウードビレによる1822年の作品です。
キンポウゲ科植物
キンポウゲ科植物の花弁は5枚が基本ですが変異が多く、十数枚におよぶものもあります。キンポウゲ科植物は、アルカロイドを含む種が多いので一般には毒草と呼ばれることが多いです。
本画は、サワビーにより1700年代末に描かれたものです。
アメリカニンジン
アメリカニンジンは、ウコギ科に属する多年生草本で、オタネニンジンに極めて近い種でカナダやアメリカ北部に自生していました。形態は根や果実等オタネニンジンとぼぼ同様です。宣教師により中国の人参の情報がヨーロッパからカナダに寄せられ、1716年にカナダの山地で発見されるに至りました。1730年代から原住民や噂を聞きつけた中国人が押し寄せ1800年頃には自生種を掘り尽くすに至りました。その後保護と増殖が進み、現在では乾燥品が年間1000トン生産され中国等へも輸出されています。中国の受け入れ港が広東だったため、広東人参と呼ばれていました。
アメリカニンジンは形態もさることながら成分もオタネニンジンと良く似ていて、ダンマラン骨格を持つジンセノシドが主成分で、胃腸を整える作用、中枢作用、抗腫瘍活性、強壮強精作用等が広く研究されています。人参剤は虚証を目安に投与されますが、アメリカ人参は比較的体格の充実した人にも適用されることが少なくないようです。
本画は1800年代初期にVietzにより描かれたものです。
セイヨウオオバコ
セイヨウオオバコ(Plantago major;オオバコ科)はヨーロッパ原産ですが今では全世界に帰化してオオバコ(Plantago asiatica)と共生しています。
オオバコというと薬草というイメージよりも、子供の頃にその茎で遊んだ思い出が頭に浮かぶのではないでしょうか。このオオバコは狭い農道や登山道の車のわだちに沿ってどこまでも続くといった植生で車前草(しゃぜんそう)の名が付きました。梅雨期前後に白い小さな花を穂状に付け、やがてたくさんの種子となります。全草(車前草)を煎じて服用すると利尿、健胃、強壮などに効果があります。また、お茶代わりに飲むと、夏に水の取りすぎによる体のだるさや食欲不振を解消できます。種子(車前子)を煎服すれば、風邪や喘息の咳止めとして効果があります。漢方薬の牛車腎気丸にも配合されます。
本画はサワビーによる1700年代末の作品です。
没食子
地中海沿岸を中心に自生する、カシ、コナラ、アベマキ等に似た高木の葉の新芽にインクフシバチ(没食子蜂;画の左下)が寄生して産卵し、虫こぶを作ったものが没食子と呼ばれるものでタンニン原料となります。画の中でボール状の虫癭(ちゅうえい)がそれです。没食子にはタンニンが50~70%も含まれています。没食子のタンニンはグルコースの水酸基に没食子酸が結合したもので、アルブミンと結合させたタンニン酸アルブミンや生薬のオウバク(黄檗)から単離したベルベリンと結合したタンニン酸ベルベリン等の製剤がつくられています。何れも下痢止めとして服用します。特にタンニン酸ベルベリンは腸内でタンニンとベルベリンが遊離して、ベルベリンにより腸内細菌による異常発酵を治す作用を持っています。また、インクの原料や染色としても用いられます。
本画の作者や製作年代は不詳ですが学名はQuercus infectoriaと読み取れます。ラテン語のQuercusは良質の木、infectoriaは染色の意味で、染色に用いられていたことが窺えます。英語のinfection(感染)とも関係があるのかも知れません。
ザクロ
ザクロ科に属する落葉低木で原産地はイラン、トルコ等の中近東と考えられています。初夏紅橙色の合弁花を開き、秋に多くの種子を内蔵する果実を結びます。種子を取り巻く果肉は酸っぱくてジューシーなので乾燥地域で良く食べられます。樹皮は柘榴皮と呼び、ペレチエリン、イソペレチエリン等のアルカロイドを含んでいます。ヒトには低毒性で、条虫に強い毒性をしめすため条虫駆除薬として用いられていましたが、現在日本では用いられません。一方果皮はプニカタンニン等を多く含み、古来より口内のただれ、歯痛、下痢等に用いられてきました。本画は1800年中期のステップによる作品です。
ムラサキ
ムラサキ科に属する多年生草本です。葉や茎には多くの毛が生えています。初夏に白い小さな花を開き直に小さな白い種子を結びます。根を紫根(しこん)と呼び、火傷や痔疾等に用いられます。30年程前には根のタンク培養が行われバイオ口紅が発売された事を記憶しています。根の紫色成分はシコニンです。先月のアルカンナの主成分、アルカンニンとは光学異性体です。本画の作者、年代は不詳です。
アルカンナ
アルカンナは、ムラサキ科に属する多年草です。トルコ辺りに多く自生しています。根はアルカンナ根(アルカネット)と呼び染料として又医薬品として流通しています。アルカンナ根にはアルカンニンと呼ばれるナフトキノン類が含まれており、アルコールで抽出すると赤色となります。アルカンニンは日本にも自生しているムラサキの根(紫根)に含まれる紫色素のシコニンとは旋光度が逆の光学異性体となっています。アルカンナ根エキス(商品名:ストプラスチンレッド)は外傷性潰瘍、ハンセン病性潰瘍、褥瘡(床擦れ)等に適用され、また、治癒し難い無痛性潰瘍に対しては4~6週間塗布することにより80%の治癒率があると言われています。一方、漢方薬の「紫雲膏」も抗炎症作用が強く火傷、痔 疾、褥瘡等に用いられますが、近年ペルーで抗リューシュマニア作用薬として臨床に供され、エチオピアエチオピア・アーマー医学研究所で臨床試験が行われました。なお、これらのデータの詳細は、正山征洋著「東洋と西洋の紫色素」(長崎国際大学論叢、第16巻、177~185頁、2016年)をご参照下さい(下記リンク)。本画の作者、年代は不詳です。
長崎国際大学学術機関リポジトリ「東洋と西洋の紫色素」
リンドウ
リンドウはリンドウ科に属し、山地の草原に自生する多年生草本です。茎に葉が対生に付き、秋になると茎の先端に紫色の花が数輪開きます。ただし、リンドウの花は光が当たらないと開花しません。花言葉は「正義」、「誠実」、「貞淑」です。根茎は竜胆(りゅうたん)と称して、体を冷やす漢方薬、例えば竜胆瀉肝湯(りゅうたんしゃかんとう)等に配合され、尿路の炎症をとり泌尿器疾患を改善するとともに、苦味健胃薬としても用いられます。
本画はカーチスによるボタニカルマガジン(1800年代)の作品です。
アサガオ
ヒルガオ科サツマイモ属の1年草で、左巻のつるが伸びます。アサガオ(朝顔)は奈良時代の末期に遣唐使が薬用として種子を持ち帰ったと言われています。江戸時代に園芸品種としての育種が広く行われて多種多様な品種が作り出されました。種子を牽牛子(ケンゴシ)と呼び薬用とします。
牽牛子には樹脂配糖体と呼ばれる成分が含まれ、基本的には脂肪酸と糖類が結合した構造をしており、下剤として用いられてきました。樹脂配糖体はエーテルに溶ける成分ヤラピンとエーテルに溶けない成分コンボルブリンに分けられて、それぞれが構造決定され新しい生物活性に関する研究が行われています。
峻下剤としては種子の粉末を1日量0.5-1.5g、緩下剤としては0.2-0.3gを服用します。牽牛子は作用が強いので妊婦や体の弱った人は避けたほうがよいでしょう。また、虫刺されやしもやけにも用いられます。
本画は1700年代半ばにカーチスによる手彩色の作品です。花色も地味で花も小さく原種に近いものと推察されます。
キダチアロエ
ユリ科に属する多年生草本で日本の暖地で広く栽培され、真冬に赤い花が咲きます。この植物は下剤成分を含んでいますが、量が少ないので下剤の作用は弱く、むしろお腹を整える働きをします。また、やけどした直後に塗れば治りが早くケロイドにもならないので広く愛用されています。暖地で大規模に栽培され、葉のゼリー状の部分を取り出し、ヨーグルト等に入れられます。一方、通常のアロエはアフリカに自生する木本性多肉植物で、高さ6mにも達し、葉を切ると液が出ます。これを集めて乾燥したものがガラス状の蘆薈(ロカイ)で、とても苦くアントラキノン類の含量が高く強い下剤(峻下剤)として用いられます。本画は1800年中期のステップによる作品です。
アオキ
ミズキ科に属する低木で、半日蔭の湿気の多い地に自生し、また広く庭に植栽されます。雌雄異株で3~5月頃、雌株の花序に数個、雄株の花序には多数の、いずれも紫褐色の花をつけます。夏には楕円形の果実をつけ、冬に通常は赤い果実を結びます。なお、園芸品種も多く、葉にふが入るものや果実が黄色なものなど多種みられます。新鮮な葉を火で焙りドロドロにして火傷やしもやけに塗ります。また、葉をもんで柔らかくして腫れ物に貼ります。キハダ(黄柏)を抽出してエキスをつくり乾燥させたものが陀羅尼助(だらにすけ)と呼ばれ、胃腸薬として下痢等に用いられますが、陀羅尼助の艶を出すためにアオキの葉を加えて煮詰めます。
キダチチョウセンアサガオ
ナス科に属する低木のキダチチョウセンアサガオです。夏頃から秋にかけて白や黄色、ピンク等のラッパ状の花を開きますのでトランペットツリーやエンジェルトランペットとも呼ばれます。通常は一重の花が多いですがダブルも見られます。葉や茎にはアトロピンやスコポラミンを含有 し、通常は毒植物に分類されますが、アトロピン、スコポラミンはれっきとした医薬品で、副交感神経遮断薬として胃の急な痛みが起きた時などに用いる他に瞳孔散大や胃腸の蠕動運動抑制等の目的で用いられます。本画は、パキソンによる1834年の作品です。
ダイオウ (大黄)
ダイオウはタデ科に属する多年生草本で、通常は高山地帯に自生します。また、生育環境が同じような地で栽培されます。大きい株は人の頭ほどもある根茎を掘り出し、輪切りにして冬の寒い屋外で乾燥します。
本画にはロシア大黄と説明されていますので、中国から輸入された大黄がロシアで集荷され市販されていたものと考えられます。形態から品質的には若干劣る馬蹄大黄に属します。品質的な記述は有りませんが、アントラキノン類は十分含まれており、下剤用に用いられたものと考えられます。大黄は下剤としての使用ばかりでなく、アルコール類の色つけとしての使用があったとの記述も見られます。
本画は1852年ウインクラーにより出版された薬用植物の本の中の1ページで、手彩色によるものです。
コエンドロ Coriandrum sativum
コエンドロはコリアンダーとも呼ばれ、地中海沿岸原産でセリ科に属する1年草です。古代エジプトや古代ローマ、古代ギリシャにおいて薬草としてまた、香草として珍重されました。日本へは10世紀頃に渡来しています。草丈も低く華奢な植物ですが、カメムシ様の強烈な香りを放ちますので、好き嫌いの分かれるスパイスです。近年はタイ語の「パクチー」がよく使われ、タイ料理を中心に熱帯アジア各国の料理に用いられ、やみつきになった人も少なくないようです。果実はテルペン含量が高く芳香性健胃薬として用いられます。本作品の作者、年代共不詳です。
ウイキョウ Foeniculum vulgare
地中海沿岸が原産地で明治初期に渡来しました。セリ科に属する多年草で、草丈は1~2mとなり、糸状に分かれた葉をつけます。夏にかけて傘を開いたような花茎を伸し小さな黄色花を多数開き、秋には分果が熟します。果実は精油含量が高く、主成分はアネトールでその他モノテルペン類が多種含まれています。果実は90%以上がスパイスとして使用されますが、芳香性健胃薬として胃腸薬にも配合されます。また、漢方では安中散に桂皮、茯苓、牡蠣、甘草、良姜、延胡索、縮砂等と共に茴香が配合され、胃に痛みがある時の健胃薬として、また、去痰作用も期待できます。
本画にはウイキョウがあしらってあり、パンにのせられ、また、ウイキョウを加えたピクルスを作っているように見受けられます。本作品の作者、年代共不詳です。
ホップ Humulus lupulus
クワ科に属する雌雄異株のつる性の多年草です。日本各地に自生しているカナムグラの仲間で、アサ(大麻)とも近い種です。夏から秋にかけて開花しますが、雌花を採取してプレスしたものがホップです。ホップは麦汁に加えて加熱してビールの香りと苦みをつけます。ヨーロッパ、特にドイツでは、支柱を立ててワイヤーを張り栽培している様子を車窓から見ることが出来ます。日本においても岩手、山形、秋田各県で栽培されています。ホップの成分の研究も古くから行われていて、精油成分、苦味をもつフムロン酸類、プレニールカルコン類、プレニールフラボノイド等が単離構造決定されています。ホップは古くから鎮静作用、睡眠作用、健胃作用をもつ民間薬として用いられており、ヨーロッパではカプセル入りのホップが売られています。本画は1800年代末のカーラーによる作品です。
ミシマサイコ Bupleurum falcatum
セリ科に属する多年草です。図の様に葉がイネ科植物に似ています。夏に入ると傘型の花穂をつけ小さな黄色の花を開きます。 Bupleurum属植物は世界に広く分布しており、ヨーロッパでも目にすることがあります。本ボタニカルアートもヨーロッパにおいてエッチングが作られ手彩色された1800年代の作品です。根を柴胡と称し、柴胡剤と呼ばれ慢性化した病気に対する漢方薬に配合される、大変重要な生薬です。
参考図書のご紹介
ボタニカルアートにご興味のある方は、下記の書籍をご覧ください。
「ボタニカルアートの薬草手帖」
著者 | 正山 征洋 |
---|---|
出版社 | 西日本新聞社 |
出版日 | 2014/7/28 |
書籍購入はこちら |
「薬草の散歩道」
著者 | 正山 征洋 |
---|---|
出版社 | 九州大学出版会 |
出版日 | 2003/10 |
書籍購入はこちら |
四季の漢方薬
春 | 小青竜湯 | 花粉症 |
---|---|---|
夏 | 麦門冬湯 | 熱中症予防 |
秋 | 抑肝散 | 認知症 |
冬 | 麻黄湯 | インフルエンザ |